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2024年1月4日
令和6年の念頭にあたり、謹んで挨拶を申し上げます。
まず、この元日は死傷者・行方不明者多数を数える大災害に見舞われ、いまもなお懸命な捜索・救助活動が続けられている状況、翌2日は旅客機側には犠牲者が出なかったものの、我が国を守る重要な担い手が5名失われる大事故が発生し、とても正月を祝う気持ちにはなれません。被災地におかれましては、せめて一日も早く日常を回復できるようにと願うばかりです。
一方、世界に目を向けると、ウクライナに加え中東のガザでも戦争が起こり、どちらも一向に収束する気配がなく、犠牲者が増え続けています。私は世界中の殆どの庶民は、人を殺し合うことのない平和な世界になることを強く願っているはずと信じていますが、それが叶いそうもない今の現実は悲しく残念です。
自然災害は防ぎ切ることはできません。しかし、戦争・軍事侵攻は地球上最高の知能を持った人間が、叡智を尽くして行っている地球上最低の愚行ですから。
さて、今年、令和6年(2024年)は、3つの要因で地域医療にはとても厳しい年となることが確かです。我が北海道社会事業協会の経営上の主力事業は病院運営ですので、生き残りをかけ総力を挙げて乗り切らなくてはならない。まさに「正念場」の年になります。
まず一番目は「働き方改革」です。
このきっかけは、ある病院に勤務する研修医が数年前に「過労死」したことと考えられます。そこで若手(=上司の命令に抗えない)医師の労働環境を改善する必要がある、との根拠から、またたく間に、都会も地方も全国一律に法整備が進んだものです。その結果、この4月から医療機関でも時間外労働が厳しく制限されるようになります。時間外における宿直・日直業務が労働に当たるか否かの精査、24時間のうち連続した9時間の休養を
設ける義務、などが課せられます。ここで何が問題かというと、地方の病院はどこも医師・看護師不足で、とくに時間外の救急対応はどの病院もギリギリの状態(半ばボランティア)で大学病院からの応援を受けたりしながら頑張ってきました。そこに厳しい時間制限が適用されると、医師・看護師がまったく回せなくなり、大学からの応援も(休養時間が取れないので)お断りされる事態となりうるからです。
私達医療従事者は、地域住民のため、患者さんのために診療にあたることは時間内・外を問わず当然のことと認識していますが、それが「法令違反」となり、監督行政機関の指導・改善命令の対象になってしまうとしたら現場はやり切れません。そもそも地方病院において医師・看護師はまったく足りないし、そのように誘導してきたのは厚労省の施策ですから、全国一律に法令を適用することには無理があります。
多くの医療施設で法令違反にならない唯一の方策は「時間外に診療しない」ことにならざるを得ないのではと、大いに心配しています。医師を「労働者」の範疇に入れ、法令で厳しく時間制限をかけることが我が国の医療にとって良き事ではありません。もちろん、法令遵守のために法人も最大限の努力をいたしますが、医療の現場は非常に厳しいことを是非皆様にご理解いただきたいと思います。
二つ目はやはり「感染症」です。重症化率が著減したとはいえ、SARS-COVⅡに対しては、いまだ決定的な予防法と治療法は存在しません。感染症法上の5類になっても、医療機関における防御態勢は従前と同じであり、感染による職員の欠勤や病棟閉鎖など、病院運営には大きな負の要因であることになんら変わりありません。
三つ目は物価高です。
昨年から幅広い分野でかつてないほどの、半分くらいは開き直りと便乗に見えるのですが、大規模な値上げが実施されてきました。当然、病院で必要とする様々な用品費および光熱費などが軒並み上昇しました。 この状況に保険診療を行っている医療施設は悲鳴を挙げています。
なぜなら、収入である「診療報酬」は中央審査会で統制されており、価格転嫁などできないからです。加えて近年、行政主導で進められた医療のIT化(電子カルテ、診療報酬請求のオンライン化、画像データのデジタル保存など)の維持・更新に5〜7年ごとに数億円の費用が発生します。
また、病院特有のゴミに感染性廃棄物があります。一例として手術に使う器械をみてみますと、購入費、使用後の廃棄専用の容器購入、そして廃棄業者に処理料を支払いますが、これで3度の消費税がかかります。150 床程度の中規模病院でも、感染性廃棄物の処理には年間1,500 万円(税込み)ほどかかっています。
このように「企業努力で収入を伸ばし支出を減らすこと」がそもそもできる環境にはないのが病院の現状です。
以上、3つの要因で、「働き方改革」と「感染症」は人員不足と収入源に直結し、「物価高」は、そもそも価格転嫁不能な医療機関に理不尽な支出増を強いるものです。
対処策を2つ提案します。
第一に診療報酬体系、とくに入院基本料について。
20年以上前から、医療の効率化、質の向上のために「医療資源を都会の大規模病院に集約する」という厚労省の誘導施策により、ザックリいうと医師・看護師が多い病院は診療報酬が高く、少ない病院はそれが低くなるよう設定されています。ですので、人員不足に喘ぐ地方の病院は、おおむね低い診療報酬となっています。同じ診療をしても人員数のみにより報酬に格差が生じることは不公平です。「同一労働同一賃金」は医療には適用されないのでしょうか。地域医療維持のため、少ない人員での頑張りこそ評価すべきです。「同一診療,同一報酬」に是正すべきです。
二つ目は、消費税、医療施設では物によっては2重3重にかかっているのですが、地域を支えるインフラ、公的な医療を行う病院については、消費税を免除していただきたいと思います。病院は診療に必須の部品・機器を購入するのであり、一般の「消費活動」とは意味合いが全く異なります。あと細かいかもしれませんが、感染性廃棄物処理は行政に担っていただければと思っています。自由競争に任せるような事業ではないからです。
この2つの施策(不公平な診療報酬体系の是正,消費税免除)により、地方の病院運営がかなり改善されます。
ところで、昨年秋頃から業績の良い、体力のある大企業などを中心に人員獲得も兼ねて、この春には大幅な賃上げの機運が醸成されております。我が法人でもとくに看護師をはじめとするコメディカルの報酬アップは、かなり以前から必要と考えていましたが、種々の要因により困難な状況でした。
しかし、人財獲得の競争力を上げるためにも、このたび思い切って新たな(働きの内容、貢献の度合いがより正当に反映される)報酬体系に移行します。そのために一時的に数億円の支出増となりますが、人財あっての組織ですので、敢行します。
最後に繰り返しますが、社会インフラである医療施設に関し、
1 医師を「労働者」の括りに入れ、そこに厳しい時間制限を課したこと。
2 人員数による不公平な診療報酬体系。
3 医療DXのお題目の下、莫大な機器整備/更新費を強いていること。
4 消費税を課していること。
これらは医療の実情を考えていない施策と言わざるを得ません。
とくに地域医療を維持するためにはいずれも負の要因ですので、早急に考え直していただくことを希望します。
社会福祉法人 北海道社会事業協会
理事長 吉田 秀明
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